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言語の比較・対照/そのための多言語学習

《コピュラ文》を34言語で比べてみた

 テーマ《コピュラ文》について,これまで記事を書いてきた34言語で比べてみた。今回比べるポイントは,主に「コピュラ文の作り方」「コピュラの種類」のふたつ。また,今後の課題として「Bに形容詞が入るか」「省略」という小テーマについても考えてみた。

 ラテン文字以外の文字を使う場合は,適宜ラテン文字表記を併記する。詳しくは「ラテン文字化について」を参照。

  • 目次-CONTENTS-

 

対象言語

 今回比べたのは,以下の34言語(五十音順)。

 言語名にリンクを貼っておいた。各言語のテーマ《コピュラ文》の記事へはここから飛ぶか,「テーマ《コピュラ文》について」にも五十音順と系統別のリンク一覧がある。

 

コピュラ文の作り方

 「テーマ《コピュラ文》について」では,コピュラ文を以下のように説明した。

コピュラ文とは?

 コピュラ文とは,「AはBだ」「A is B」のように,Aが何なのか,Bで述べる文のこと。

 また,このときAとBを結び付けるために使う語をコピュラと言う。

 このコピュラ文の作り方を比べてみる。例えば「私は日本人だ」という内容を,フランス語とロシア語では以下のように言う。

  1. Je suis Japonais.
  2. Я японец.

 フランス語(例文1)はA+コピュラ+Bという構成の3語タイプ,ロシア語(例文2)はAとBを並べる2語タイプである。このように,AとBを結び付けるときにコピュラを使うかどうかで大きく2タイプに分けることができる。

 ただし,コピュラを使うかどうかは文の種類や内容などによっても変わる。上例のように「私は日本人だ」という内容を言うとき,今回の対象言語34がどちらのタイプになるかをまとめると以下のようになる。

3語タイプ

ウルドゥー語

英語

エストニア語

韓国語

ギリシャ語

グルジア語

スウェーデン語

スペイン語

スロヴェニア語

スワヒリ語

チェコ語

中国語

デンマーク語

ドイツ語

トルコ語

日本語

ノルウェー語

ハンガリー語

ヒンディー語

フィンランド語

フランス語

ブルガリア語

ベトナム語

ペルシア語

ポーランド語

ラオス語

ラトヴィア語

リトアニア語

ルーマニア語

2語タイプ

カンボジア語

ビルマ語

ヘブライ語

ベンガル語

ロシア語

 今回の対象言語の中では,圧倒的に3語タイプのほうが多かった。ただ,あくまでこれは「私は日本人だ」と言う場合の話である。

 タイプの違いに関わる要素は,例えば「現在形かどうか(時制)」「肯定文か否定文か」「Aの人称」「Bの内容」などがある。各言語のテーマ記事には,分かる範囲でこのタイプの違いについても書いた。以下,その中からトルコ語とハンガリー語の例を取り上げる。

トルコ語とハンガリー語の場合

 トルコ語とハンガリー語では,Aの人称によってタイプが異なる。例えば,「私は日本人だ」(Aが1人称)と「彼は日本人だ」(Aが3人称)はそれぞれ以下のようになる。

トルコ語の例

  1. Japon'um.
  2. 私は日本人だ。
  3. O Japon.
  4. 彼は日本人だ。

ハンガリー語の例

  1. Japán vagyok.
  2. 私は日本人だ。
  3. Ő Japán.
  4. 彼は日本人だ。

 トルコ語では,Aが1人称・2人称のときだけBに人称の付属語(例文3の-um)がつき,これがコピュラの役割をする。ハンガリー語でも,Aが1人称・2人称のときだけ動詞vanの活用形(例文5のvagyok)を使い,これがコピュラとなる。

 トルコ語でもハンガリー語でも,コピュラがAの人称と数を表しているので,人称代名詞の「私」が省略されている。見た目的には分かりづらいが,両言語ともAが1人称・2人称のときは3語タイプ3人称のときは2語タイプとなるということ。

 「1・2人称の場合」と「3人称の場合」とでコピュラ文のタイプが異なるのは,有生性階層の反映と思われる。より正確には,Aが「1・2人称代名詞の場合」と「それ以外の場合」とで異なると言うべきだろう。

有生性と有生性階層

 有生性は,名詞がもっている「生物か無生物か」という意味的区別のこと。広義には「人間かどうか」「人称は何か」など,より細かい区別を含む。

 この区別は様々な言語の文法現象に現れる。その現れ方を観察して序列をつけたものが有生性階層である。代名詞は一般名詞に比べて有生性の序列が高く,その中でも1・2人称代名詞が最も高い。

 

コピュラの種類

 3語タイプの場合に使われるコピュラの種類について,スペイン語と韓国語の場合について見ておく。

スペイン語の場合

 例えば,英語とスペイン語で「マリアはスペイン人だ」「お店は開いている」というふたつの文を見ると以下のようになる。

英語の場合

  1. Maria is Spanish.
  2. マリアはスペイン人だ。
  3. The shop is open.
  4. お店は開いている。

スペイン語の場合

  1. María es española.
  2. マリアはスペイン人だ。
  3. La tienda está abierta.
  4. お店は開いている。

 英語ではどちらの文にもisがコピュラとして使われているのに対して,スペイン語では2種類のコピュラ(esestá)が使われている。esはserの現在・3人称・単数形,estáはestarの現在・3人称・単数形で,それぞれまったく別の動詞である。

 スペイン語ではAの本来的な性質を表すときはserが,一時的な状態を表すときはestarが用いられる。つまり,Bの内容Aとの関係によって複数のコピュラを使い分けているということ。

 こういう例はいろいろな言語にあるが,各テーマ記事ではあまり取り上げなかった。スペイン語のほかには,「ラオス語の《コピュラ文》」で少し取り上げたくらい。ラオス語にもあるような「名前の言い方」「年齢の言い方」などを各言語で比べてみると,面白い結果が得られるかもしれない。

韓国語の場合

 韓国語では,肯定か否定かによって2種類のコピュラを使い分ける。また使い方も少し異なる。肯定文では이다(ida)を,否定文では아니다(anida)を使うが,否定文では直前の語に助詞をつけ,分かち書きをする。

  1. 저는 일본 사람입니다.
  2. jeoneun ilbon saramimnida.
  3. 私は日本人です。
  4. 저는 일본 사람이 아닙니다.
  5. jeoneun ilbon sarami animnida.
  6. 私は日本人ではありません。

 今回の対象言語では,日本語とカンボジア語がこれに似ている。ただ,日本語は文体の違いもあるため多少複雑な関係になっており,カンボジア語は肯定形に2語タイプと3語タイプが存在する点で韓国語とは微妙に異なる。

 

今後の課題

 各テーマ記事ではっきりと言及はしなかったものの,今後の課題としてふたつの小テーマについて書いておきたい。

Bに形容詞が入るか

 コピュラ文「AはBだ」のBに形容詞が入る言語と,入らない言語がある。内訳は以下のよう。

Bに形容詞が入る言語

ウルドゥー語

英語

エストニア語

ギリシャ語

グルジア語

スウェーデン語

スペイン語

スロヴェニア語

スワヒリ語

チェコ語

デンマーク語

ドイツ語

トルコ語

ノルウェー語

ハンガリー語

ヒンディー語

フィンランド語

フランス語

ブルガリア語

ヘブライ語

ペルシア語

ベンガル語

ポーランド語

ラトヴィア語

リトアニア語

ルーマニア語

ロシア語

Bに形容詞が入らない言語

韓国語

カンボジア語

中国語

日本語

ビルマ語

ベトナム語

ラオス語

 これはコピュラ文にかかわるテーマではあるものの,各テーマ記事ではっきりと言及はしなかった。そもそも,形容詞がどういう性質なのかは言語によって異なる。いずれ「名詞」「形容詞」「動詞」などの品詞について記事を書くつもりなので,そのときに詳しくまとめたい。

 ただ,例外的に「日本語の《コピュラ文》」では少し説明をした。日本語では,イ形容詞はBに入らないが,ナ形容詞はBに入ることができる。

省略について

 コピュラ文「AはBだ」の各要素,すなわち「A」「B」「コピュラ」が何らかの理由で省略されることがある。例えば「中国語の《コピュラ文》」で,日付・曜日・時間・年齢などを言うときにコピュラが省略される例を出した。また「スワヒリ語の《コピュラ文》」では,「会話ではコピュラが省略されることもある」と説明した。

 これもコピュラ文と無関係ではないものの,あまり詳しく解説したわけでもない。また,この先どこかで詳しくまとめるかも分からない。ただ,「人称代名詞」「疑問文」「時間の表現」など,いろいろなテーマについて書いていくうちに,新しく書けることが増える可能性はある。

 ここでは今後の課題として挙げるにとどめておく。

 

まとめ

 要点は以下の3つである。

  • コピュラ文の作り方には,3語タイプと2語タイプがある
  • 3語タイプを使うか2語タイプを使うかは,同じ言語でも場合によって異なる
  • 3語タイプで使うコピュラの種類も,場合によって変わる

 正直,まだまだ書きたいことが山のようにある。今回言及した「コピュラ文の作り方」「コピュラの種類」もまだ論じる余地が残っているし,今後の課題も残っている。

 次の機会にはまったく別の見方で《コピュラ文》を比べるかもしれないし,今回と同じ見方でも,対象言語が増えれば別の結果が得られるかもしれない。何にせよ,いずれまたこのテーマで記事は書くつもりである。

 今回はこんなところで。

 

参考文献

  • 『明解言語学辞典』三省堂,2015年,斎藤純男,田口善久,西村義樹(編)

 

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