ロシア語のコピュラ文「AはBだ」について書く。ここでは動詞быть(bytʹ)を使った文と,述語副詞を取り上げる。
翻字については「キリル文字の翻字について」を参照。
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基本的なしくみ
бытьとその活用形
ロシア語で「AはBだ」を表す動詞はбыть(bytʹ)である。бытьは活用するが,現在形はないので,現在形ではAとBを並べるだけで良い。名詞と名詞を並べる場合は—を挟む。
- Он японец.
- On japonec.
- 彼は日本人だ。
- Токио — столица Японии.
- Tokio — stolica Japonii.
- 東京は日本の首都だ。
現在形以外ではбытьの活用形が用いられる。過去形は主語の性・数に従って活用し,未来形は主語の人称・数によって活用する。
бытьの過去形
男性 | 女性 | 中性 | 複数 |
---|---|---|---|
был byl |
была byla |
было bylo |
были byli |
бытьの未来形
単数 | 複数 | |
---|---|---|
1人称 | буду budu |
будем budem |
2人称 | будешь budešʹ |
будете budete |
3人称 | будет budet |
будут budut |
- Анна была певицей.
- Anna byla pevicej.
- アンナは歌手だった。
- Он скоро будет отцом.
- On skoro budet otcom.
- 彼はもうすぐ父親になる。
ただし,это(èto)「これは,それは」が主語の文では,бытьは述語「Bだ」に入る名詞・代名詞の人称・性・数に従って活用する。
- Это интересная книга.
- Èto interesnaja kniga.
- それは面白い本だ。
- Это была интересная книга.
- Èto byla interesnaja kniga.
- それは面白い本だった。
格
ロシア語には主格・生格・与格・対格・造格・前置格の6種類の格がある。「AはBだ」を表すとき,現在形ではA・Bどちらも主格。過去形・未来形・不定形などでは造格になることが多い。
先に示した例文3と例文4で,певица(pevica)「歌手(女性)」がпевицей(pevicej)に,отец(otec)「父」がотцом(otcom)になっている。ただし,主語がэто「これは,それは」の場合は常にA・Bは主格である(例文5と例文6)。
形容詞
述語となる形容詞には長語尾形と短語尾形がある。長語尾形には格変化があり,主に恒常的・長期的な性質を表す。短語尾形には主格の変化しかなく,主に一時的な状態や相対的な性質を表す。
ただし,こうした傾向はあるものの,その使い分けはあいまいなところもあるらしい。
- Эта книга интересная.
- Èta kniga interesnaja.
- その本は面白い。
- Он добр к женщинам.
- On dobr k ženščinam.
- 彼は女性に優しい。
もともと一時的な状態を表すболен(bolen)「病気だ」やзанят(zanjat)「忙しい」などは短語尾形でしか使われない。また,политический(političeskij)「政治の」やобщественный(obščestvennyj)「社会の」のような関係形容詞には,長語尾形しかない。
述語副詞
ロシア語には無人称文という,主格の主語が存在しない文がある。無人称文で使われる人称・性・数の変化を持たない述語を,述語副詞と言う。例えば,形容詞の短語尾・中性形に由来するхолодно(xolodno)「寒い」やинтересно(interesno)「面白い」など,あるいは述語副詞としてしか使われないнадо(nado)「~しなければならない」やнельзя(nelʹzja)「~できない」などがある。
述語副詞には時制の変化がないので,過去形ではбыло(bylo)を,未来形ではбудет(budet)を添えて時制を表す(述語副詞の前に置くことも,後ろに置くこともある)。
- Сегодня холодно.
- Segodnja xolodno.
- 今日は寒い。
- Вчера было холодно.
- Včera bylo xolodno.
- 昨日は寒かった。
- Завтра будет холодно.
- Zavtra budet xolodno.
- 明日は寒いだろう。
メモ
意味上の主語は与格で表す。
- Мне было холодно.
- Mne bylo xolodno.
- 私は寒かった。
用例
用例をいくつか書いておく。
- Они японцы.
- Oni japoncy.
- 彼らは日本人だ。
- Михаил похож на отца.
- Mixail poxož na otca.
- ミハイルは父に似ている。
- Он родом из Праги.
- On rodom iz Pragi.
- 彼はプラハ出身だ。
- Это моё.
- Èto moë.
- それは私のものだ。
- В этой комнате жарко.
- V ètoj komnate žarko.
- この部屋は暑い。
- Мне было стыдно.
- Mne bylo stydno.
- 私は恥ずかしかった。
- Трудно убедить его.
- Trudno ubeditʹ ego.
- 彼を説得するのは難しい。
- Это нельзя съесть.
- Èto nelʹzja sʺestʹ
- それは食べられない。
- Нельзя было входить в эту комнату.
- Nelʹzja bylo vxoditʹ v ètu komnatu.
- その部屋に入ってはいけなかった。
メモ
例文14のродом(rodom)「~の生まれだ,~出身だ」は副詞で,из Праги(iz Pragi)「プラハから」やчех(čex)「チェコ人」などの生まれた場所や国籍・民族などを表す語句と結びつく。
例文15のмоё(moë)はмой(moj)「私の」の中性形。Это(Èto)が何を指しているかによってмойの性・数を変化させて使う。
нельзя(nelʹzja)の意味が「~できない」の場合,続く動詞不定形はふつう完了体(例文20),「~してはいけない」の意味では不完了体(例文21)。
その他の場合
動詞быть(bytʹ)はほかにも存在・所有を表したり,受身の表現や不完了体動詞の未来形を作る際に用いられたりする。
参考文献
- 『博友社ロシア語辞典〈改訂新版〉』博友社,1995年,木村彰一,佐藤純一,森安達也,栗原成郎,中村喜和,桑野隆,松井茂雄(編)
- 『NHK出版 これならわかる ロシア語文法 入門から上級まで』NHK出版,2016年,匹田剛