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ロシア語の《コピュラ文》

 ロシア語のコピュラ文「AはBだ」について書く。ここでは動詞быть(bytʹ)を使った文と,述語副詞を取り上げる。

 翻字については「キリル文字の翻字について」を参照。

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基本的なしくみ

бытьとその活用形

 ロシア語で「AはBだ」を表す動詞はбыть(bytʹ)である。бытьは活用するが,現在形はないので,現在形ではAとBを並べるだけで良い。名詞と名詞を並べる場合は—を挟む。

  1. Он японец.
  2. On japonec.
  3. 彼は日本人だ。
  4. Токио — столица Японии.
  5. Tokio — stolica Japonii.
  6. 東京は日本の首都だ。

 現在形以外ではбытьの活用形が用いられる。過去形は主語の性・数に従って活用し,未来形は主語の人称・数によって活用する。

бытьの過去形

男性 女性 中性 複数
был
byl
была
byla
было
bylo
были
byli

бытьの未来形

  単数 複数
1人称 буду
budu
будем
budem
2人称 будешь
budešʹ
будете
budete
3人称 будет
budet
будут
budut
  1. Анна была певицей.
  2. Anna byla pevicej.
  3. アンナは歌手だった。
  4. Он скоро будет отцом.
  5. On skoro budet otcom.
  6. 彼はもうすぐ父親になる。

 ただし,это(èto)「これは,それは」が主語の文では,бытьは述語「Bだ」に入る名詞・代名詞の人称・性・数に従って活用する。

  1. Это интересная книга.
  2. Èto interesnaja kniga.
  3. それは面白い本だ。
  4. Это была интересная книга.
  5. Èto byla interesnaja kniga.
  6. それは面白い本だった。

 ロシア語には主格・生格・与格・対格・造格・前置格の6種類の格がある。「AはBだ」を表すとき,現在形ではA・Bどちらも主格。過去形・未来形・不定形などでは造格になることが多い。

 先に示した例文3と例文4で,певица(pevica)「歌手(女性)」がпевицей(pevicej)に,отец(otec)「父」がотцом(otcom)になっている。ただし,主語がэто「これは,それは」の場合は常にA・Bは主格である(例文5と例文6)。

形容詞

 述語となる形容詞には長語尾形短語尾形がある。長語尾形には格変化があり,主に恒常的・長期的な性質を表す。短語尾形には主格の変化しかなく,主に一時的な状態や相対的な性質を表す。

 ただし,こうした傾向はあるものの,その使い分けはあいまいなところもあるらしい。

  1. Эта книга интересная.
  2. Èta kniga interesnaja.
  3. その本は面白い。
  4. Он добр к женщинам.
  5. On dobr k ženščinam.
  6. 彼は女性に優しい。

 もともと一時的な状態を表すболен(bolen)「病気だ」やзанят(zanjat)「忙しい」などは短語尾形でしか使われない。また,политический(političeskij)「政治の」やобщественный(obščestvennyj)「社会の」のような関係形容詞には,長語尾形しかない。

 

述語副詞

 ロシア語には無人称文という,主格の主語が存在しない文がある。無人称文で使われる人称・性・数の変化を持たない述語を,述語副詞と言う。例えば,形容詞の短語尾・中性形に由来するхолодно(xolodno)「寒い」やинтересно(interesno)「面白い」など,あるいは述語副詞としてしか使われないнадо(nado)「~しなければならない」やнельзя(nelʹzja)「~できない」などがある。

 述語副詞には時制の変化がないので,過去形ではбыло(bylo)を,未来形ではбудет(budet)を添えて時制を表す(述語副詞の前に置くことも,後ろに置くこともある)。

  1. Сегодня холодно.
  2. Segodnja xolodno.
  3. 今日は寒い。
  4. Вчера было холодно.
  5. Včera bylo xolodno.
  6. 昨日は寒かった。
  7. Завтра будет холодно.
  8. Zavtra budet xolodno.
  9. 明日は寒いだろう。

メモ

 意味上の主語は与格で表す。

  1. Мне было холодно.
  2. Mne bylo xolodno.
  3. 私は寒かった。

 

用例

 用例をいくつか書いておく。

  1. Они японцы.
  2. Oni japoncy.
  3. 彼らは日本人だ。
  4. Михаил похож на отца.
  5. Mixail poxož na otca.
  6. ミハイルは父に似ている。
  7. Он родом из Праги.
  8. On rodom iz Pragi.
  9. 彼はプラハ出身だ。
  10. Это моё.
  11. Èto moë.
  12. それは私のものだ。
  13. В этой комнате жарко.
  14. V ètoj komnate žarko.
  15. この部屋は暑い。
  16. Мне было стыдно.
  17. Mne bylo stydno.
  18. 私は恥ずかしかった。
  19. Трудно убедить его.
  20. Trudno ubeditʹ ego.
  21. 彼を説得するのは難しい。
  22. Это нельзя съесть.
  23. Èto nelʹzja sʺestʹ
  24. それは食べられない。
  25. Нельзя было входить в эту комнату.
  26. Nelʹzja bylo vxoditʹ v ètu komnatu.
  27. その部屋に入ってはいけなかった。

メモ

 例文14のродом(rodom)「~の生まれだ,~出身だ」は副詞で,из Праги(iz Pragi)「プラハから」やчех(čex)「チェコ人」などの生まれた場所や国籍・民族などを表す語句と結びつく。

 例文15のмоё(moë)はмой(moj)「私の」の中性形。Это(Èto)が何を指しているかによってмойの性・数を変化させて使う。

 нельзя(nelʹzja)の意味が「~できない」の場合,続く動詞不定形はふつう完了体(例文20),「~してはいけない」の意味では不完了体(例文21)。

 

その他の場合

 動詞быть(bytʹ)はほかにも存在・所有を表したり,受身の表現や不完了体動詞の未来形を作る際に用いられたりする。

 

参考文献

  • 『博友社ロシア語辞典〈改訂新版〉』博友社,1995年,木村彰一,佐藤純一,森安達也,栗原成郎,中村喜和,桑野隆,松井茂雄(編)
  • 『NHK出版 これならわかる ロシア語文法 入門から上級まで』NHK出版,2016年,匹田剛

 

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