ベラルーシ語の《基数詞のしくみ》について書く。ベラルーシ語の基数詞が数をどう表しているのか,その構造・しくみをまとめる。このテーマについて詳しくは「テーマ《基数詞のしくみ》の記事リスト」に。
必要に応じて,キリル文字をラテン文字化して表記する。詳しくは「キリル文字の《ラテン文字化》」を参照。
- 目次-CONTENTS-
ベラルーシ語の基数詞
ベラルーシ語の基数詞は,主格・生格・与格・対格・造格・前置格,6種類の格変化を持つ。また,「1」と「2」には性の区別がある。ただ,ここでは語形変化については最低限の説明にとどめておきたい。
基数詞のうち,1語で表せるものを単純数詞,単純数詞を組み合わせて表すものを合成数詞と呼ぶことにする。
0
0
нуль(nulʹ)
1から9
1
адзін(adzin)
2
два(dva)
3
тры(try)
4
чатыры(čatyry)
5
пяць(pjacʹ)
6
шэсць(šèscʹ)
7
сем(sem)
8
восем(vosem)
9
дзевяць(dzevjacʹ)
「1から9」の基数詞のうち,「1」と「2」には性の区別がある。「1000以上」の基数詞は名詞扱いのため,それらと組み合わせるときは性を一致させなけれなならない。変化は以下のとおり(単数・主格の場合)。
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
1 | адзін (adzin) |
адно (adno) |
адна (adna) |
2 | два (dva) |
дзве (dzve) |
10から19
10
дзесяць(dzesjacʹ)
11
адзінаццаць(adzinaccacʹ)
12
дванаццаць(dvanaccacʹ)
13
трынаццаць(trynaccacʹ)
14
чатырнаццаць(čatyrnaccacʹ)
15
пятнаццаць(pjatnaccacʹ)
16
шаснаццаць(šasnaccacʹ)
17
сямнаццаць(sjamnaccacʹ)
18
васямнаццаць(vasjamnaccacʹ)
19
дзевятнаццаць(dzevjatnaccacʹ)
「11から19」の基数詞は,1から9+на+ццацьで,"10の上に1","10の上に2"……のような構造になっている。
20から90
20
дваццаць(dvaccacʹ)
30
трыццаць(tryccacʹ)
40
сорак(sorak)
50
пяцьдзесят(pjacʹdzesjat)
60
шэсцьдзесят(šèscʹdzesjat)
70
семдзесят(semdzesjat)
80
восемдзесят(vosemdzesjat)
90
дзевяноста(dzevjanosta)
「20と30」には-ццацьが,「50から80」には-дзесятが後ろに付いていて,それぞれ"2つの10","3つの10","5つの10"……のような構造になっている。「10」を表す部分の形が微妙に違うのは,元々「10」が単数・双数・複数の格変化を持っていて,「2」の後では双数形,「3と4」の後では複数形,「5以上」の後では常に複数生格と変化したため(ただし現在は「20と30」はどちらも-ццаць)。
ロシア語やウクライナ語と同じくсорак「40」とдзевяноста「90」だけ少し変わっている。дзевяноста「90」の由来ははっきりしないが,сорак「40」は元々クロテンの毛皮40枚1束を表す語だったらしい。
「20から90」の後に「1から9」を続けると,「21から99」の合成数詞ができる。
99以下の合成数詞
21
дваццаць адзін
22
дваццаць два
33
трыццаць тры
44
сорак чатыры
55
пяцьдзесят пяць
66
шэсцьдзесят шэсць
77
семдзесят сем
88
восемдзесят восем
99
дзевяноста дзевяць
100から900
100
сто(sto)
200
дзвесце(dzvesce)
300
трыста(trysta)
400
чатырыста(čatyrysta)
500
пяцьсот(pjacʹsot)
600
шэсцьсот(šèscʹsot)
700
семсот(semsot)
800
восемсот(vosemsot)
900
дзевяцьсот(dzevjacʹsot)
「200から900」の単純数詞は,「1から9」の後に「100」を表す部分が付いて,それぞれ"2つの100","3つの100","4つの100"……のような構造になっている。「100」を表す部分の形が-сце, -ста, -сотと違うのは,元々単数・双数・複数の格変化があり,「2」の後では双数形,「3, 4」の後では複数形,「5以上」の後では常に複数生格と変化したため。
「100から900」の後に「99以下」の基数詞をそのまま続けることで,「999以下」の合成数詞ができる。
999以下の合成数詞
101
сто адзін
202
дзвесце два
310
трыста дзесяць
411
чатырыста адзінаццаць
520
пяцьсот дваццаць
630
шэсцьсот трыццаць
722
семсот дваццаць два
833
восемсот трыццаць тры
999
дзевяцьсот дзевяноста дзевяць
1000以上
1,000
тысяча(tysjača)
1,000,000(100万)
мільён(milʹën)
1,000,000,000(10億)
мільярд(milʹjard)
1,000,000,000,000(1兆)
трыльён(trylʹën)
「1000以上」の基数詞には上のような位を表す単純数詞があり,3桁ごとに位が変わる。дзесяць тысяч「10,000(1万)」は"10個の1000",сто тысяч「100,000(10万)」は"100個の1000"のような構造になる。
位を表す数詞の前には「999以下」の基数詞を置くことができる。このとき,位を表す数詞は名詞と同じように格変化する。前に来る基数詞の末尾が「1」なら単数主格,「2から4」なら複数主格,「5以上」なら複数生格となる(前に来る基数詞が主格の場合)。
単数主格 | 複数主格 | 複数生格 | |
---|---|---|---|
1,000 | тысяча (tysjača) |
тысячы (tysjačy) |
тысяч (tysjač) |
1,000,000 (100万) |
мільён (milʹën) |
мільёны (milʹëny) |
мільёнаў (milʹënaŭ) |
1,000,000,000 (10億) |
мільярд (milʹjard) |
мільярды (milʹjardy) |
мільярдаў (milʹjardaŭ) |
1,000,000,000,000 (1兆) |
трыльён (trylʹën) |
трыльёны (trylʹëny) |
трыльёнаў (trylʹënaŭ) |
このうちтысяча「1000」は女性名詞,それ以外は男性名詞なので,前に来る基数詞の末尾が「1」「2」のときは男性形・女性形を使い分ける。
1000以上の合成数詞①
2,000
дзве тысячы
10,000
дзесяць тысяч
15,000
пятнаццаць тысяч
25,000
дваццаць пяць тысяч
50,000
пяцьдзесят тысяч
100,000
сто тысяч
101,000
сто одна тысяча
102,000
сто дзве тысячы
999,000
дзевяцьсот дзевяноста дзевяць тысяч
また,後ろにはより小さい基数詞をそのまま続けることができる。
1000以上の合成数詞②
1,001
тысяча адзін
1,010
тысяча дзесяць
1,050
тысяча пяцьдзесят
1,099
тысяча дзевяноста дзевяць
1,100
тысяча сто
1,234
тысяча дзвесце трыццаць чатыры
1,000,001
мільён адзін
1,001,000
мільён тысяча
1,234,567
мільён дзвесце трыццаць чатыры тысячы пяцьсот шэсцьдзесят сем
まとめ
ここまで,ベラルーシ語の基数詞をいくつかのグループに分けて見てきた。最後に,それぞれの基数詞の特徴を簡単にまとめておく。
0
- ほかの基数詞と組み合わせられない。
1から9
- 「1」と「2」には性の区別がある。
- 「20から90」「100から900」「1000以上」の基数詞の後にそのまま続けられる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
10から19
- 「100から900」「1000以上」の基数詞の後にそのまま続けられる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
20から90
- 後ろに「1から9」の基数詞をそのまま続けられる。
- 「100から900」「1000以上」の基数詞の後にそのまま続けられる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
100から900
- 後ろに「99以下」の基数詞をそのまま続けられる。
- 「1000以上」の基数詞の後ろにそのまま続けられる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
1000以上
- 前に「999以下」の基数詞を置くことができる。
- そのとき,前に置く基数詞に合わせて格変化する。
- 後ろにより小さな基数詞を続けることができる。
ベラルーシ語の基数詞のしくみは,言語の系統が近い「ロシア語」や「ウクライナ語」とよく似ている。「1000以上」の基数詞が「2から4」の基数詞と結びついて格変化するとき複数主格になる点ではウクライナ語に近い(ロシア語では単数生格と結びつく)。
参考文献
- 『ベラルーシ語基礎1500語』大学書林,1998年,黒田龍之助
- 『比較で読みとく スラヴ語のしくみ』白水社,2016年,三谷惠子
- 『ロシア語史入門』大学書林,2012年,佐藤純一
- 「сямнаццаць - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/16閲覧
- 「васямнаццаць - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/16閲覧
- 「тысяча - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/16閲覧
- 「мільён - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/16閲覧
- 「мільярд - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/16閲覧
- 「трыльён - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/16閲覧
また,「1000以上」の単純数詞の前に「999以下」の基数詞を置いたときの格変化については,「Wikipediaベラルーシ語版」のいくつかの記事で,実際の語形を確認しつつ参考にした。