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ポーランド語の鼻母音の反映

 ポーランド語で,共通スラヴ語の鼻母音*ǫ, *ęがどのように反映されるのか。*ǫ, *ęを含む共通スラヴ語と,それに対応するポーランド語の例を集めて比べてみた。

  • 目次-CONTENTS-

 

*ǫ, *ęの反映

 共通スラヴ語の*ǫ, *ęは,ポーランド語では一度融合して長いą短いąになり,長いąがąに,短いąがęになった。つまり,*ǫに遡るą, ęと,*ęに遡るą, ęの計4種類が存在することになる。

*ǫ > ą

共通スラヴ語 ポーランド語
*galǫzь「枝」 gałąź
*golǫbь「ハト」 gołąb
*krǫgъ「円」 krąg
*lǫka「低湿地」 łąka
*mǫžь「男,夫」 mąż
*paǫkъ「蜘蛛」 pająk
*plynǫti「泳ぐ」 płynąć
*sǫdъ「法廷」 sąd
*sǫsědъ「隣人」 sąsiad
*zǫbъ「歯」 ząb
*ǫzъkъ「狭い」 wąski
*ǫžь「ヘビ」 wąż

 *ǫに遡るąは,基本的には硬子音の後に現れる。*paǫkъ「蜘蛛」 > pająkは軟子音jの後にąが現れているが,このjは母音と母音が連続するために,間に挿入されたものと考えらえる。

*ǫ > ę

共通スラヴ語 ポーランド語
*glǫbokъ「深い」 ęboki
*gǫsь「ガチョウ」 gęś
*mǫka「苦痛」 męka
*pǫpъ「へそ」 pępek
*rǫka「手」 ręka
*sǫdi「裁判官」 sędzia
*tǫpъ「鈍い」 tępy
*ǫgľь「石炭」 węgiel

 *ǫに遡るęも,基本的には硬子音の後に現れる。

*ę > ą

共通スラヴ語 ポーランド語
*desętъ「10番目の」 dziesiąty
*devętъ「9番目の」 dziewiąty
*kъnędzь「王子」 ksiądz
*měsęcь「月」 miesiąc
*pěnędzь「お金」 pieniądze
*pętъ「5番目の」 piąty
*pętъkъ「金曜日」 piątek
*vъzęti「取る」 wziąć
*zajęcь「ウサギ」 zając

 *ęに遡るąは,軟子音の後に現れる(上の表でąの前に出てくるiは軟音記号)。*zajęcь「ウサギ」 > zającの場合は軟音記号はないが,jはそれだけで軟子音としての性質を持つ。

*ę > ę

共通スラヴ語 ポーランド語
*desętь「10」 dziesięć
*devętь「9」 dziewięć
*jьmę「名前」 imię
*mękъkъ「柔らかい」 miękki
*męso「肉」 mięso
*ormę「肩」 ramię
*pamętь「記憶」 pamięć
*porsę「仔豚」 prosię
*pęta「かかと」 pięta
*pętь「5」 pięć
*sěmę「種」 siemię
*telę「仔牛」 cielę
*tęžьkъ「重い」 ciężki
*zvěrę「動物の子」 zwierzę
*zvękъ「音」 dźwięk
*ęzykъ「言語」 język

 *ęに遡るęも,軟子音の後に現れる。iが子音と母音の間に挟まっている場合は,iが軟音記号であり,前の子音が軟子音であることを表す。また,jやlはそのままで軟子音として扱われる。

 zwierzęのrzは元々軟子音だったが,現代ポーランド語では硬子音になった音。いわゆる機能的軟子音(c, cz, dz, dż, sz, ż, rz)の一種である。

 

まとめ

ポーランド語の鼻母音の反映

*ǫ > 長いą > ą 硬子音の後
*ǫ > 短いą > ę 硬子音の後
*ę > 長いą > ą 軟子音の後
*ę > 短いą > ę 軟子音の後

 要するに現代ポーランド語のą, ęは,1*ǫと*ęどちらに遡るのか,そして2長いąと短いąどちらを経由したのかによって,大きく4種類に分かれる。長さの違いによってąとęに分かれ,*ęに遡る場合は前の子音が軟子音になる。

 しかし,軟子音が硬子音に変化した音(c, cz, dz, dż, sz, ż, rz)があるので,*ęに遡るにも関わらず,直前の子音が硬子音になることもある。

 

参考文献

 

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