ウクライナ語の《基数詞のしくみ》について書く。ウクライナ語の基数詞が数をどう表しているのか,その構造・しくみをまとめる。このテーマについて詳しくは「テーマ《基数詞のしくみ》の記事リスト」に。
必要に応じて,キリル文字をラテン文字化して表記する。詳しくは「キリル文字の《ラテン文字化》」を参照。
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- 小見出し「#1000以上」と,いくつかの表のタイトル(「999以下の合成数詞(例)」より後のもの)のクラス指定が間違っていたので修正
ウクライナ語の基数詞
ウクライナ語の基数詞は,主格・生格・与格・対格・造格・前置格の6種の格変化を持っている。また,性・数の区別を持つものもある。ただ,ここでは語形変化についてはあまり触れず,必要最低限の説明にとどめたい。
基数詞には,1語で表せる単純数詞と,単純数詞を組み合わせた合成数詞がある。
0
0
нуль(nulʹ)
1から9
1
один(odyn)
2
два(dva)
3
три(try)
4
чотири(čotyry)
5
п'ять(pʺjatʹ)
6
шість(šistʹ)
7
сім(sim)
8
вісім(visim)
9
дев'ять(devʺjatʹ)
「1」と「2」には性の区別がある。「1000以上」の単純数詞には性があるので,それらの前に「1」「2」を置く場合は,男性形・女性形を使い分ける。変化は以下のとおり(単数・主格のとき)
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
1 | один (odyn) |
одне, одно (odne, odno) |
одна (odna) |
2 | два (dva) |
дві (dvi) |
10から19
10
десять(desjatʹ)
11
одинадцять(odynadcjatʹ)
12
дванадцять(dvanadcjatʹ)
13
тринадцять(trinadcjatʹ)
14
чотирнадцять(čotyrnadcjatʹ)
15
п'ятнадцять(pʺjatnadcjatʹ)
16
шістнадцять(šistnadcjatʹ)
17
сімнадцять(simnadcjatʹ)
18
вісімнадцять(visimnadcjatʹ)
19
дев'ятнадцять(devʺjatnadcjatʹ)
「11から19」の基数詞は,1から9+на+дцятьで,"10の上に1","10の上に2"……のような構造をしている。
20から90
20
двадцять(dvadcjatʹ)
30
тридцять(trydcjatʹ)
40
сорок(sorok)
50
п'ятдесят(pʺjatdesjat)
60
шістдесят(šistdesjat)
70
сімдесят(simdesjat)
80
вісімдесят(visimdesjat)
90
дев'яносто(devʺjanosto)
「20と30」には-дцять,「50から80」には-десятが後ろに付いて,それぞれ"2つの10","3つの10","5つの10"……のような構造をしている。「10」を表す部分の形が違うのは,元々「10」が単数・双数・複数の格変化を持っていて,「2」の後では双数形,「3と4」の後では複数形,「5以上」の後では複数生格と変化したため(ただし現在は「20と30」はどちらも-дцять)。
また,дев'яносто「90」の由来ははっきりしないが,сорок「40」は元々クロテンの毛皮40枚を1束にしたものを表していたらしい。
「20から90」の後に「1から9」をそのまま続けると,「21から99」の合成数詞が作れる。
99以下の合成数詞(例)
21
двадцять один
22
двадцять два
33
тридцять три
44
сорок чотири
55
п'ятдесят п'ять
66
шістдесят шість
77
сімдесят сім
88
вісімдесят вісім
99
дев'яносто дев'ять
100から900
100
сто(sto)
200
двісті(dvisti)
300
триста(trysta)
400
чотириста(čotyrysta)
500
п'ятсот(pʺjatsot)
600
шістсот(šistsot)
700
сімсот(simsot)
800
вісімсот(visimsot)
900
дев'ятсот(devʺjatsot)
「200から900」の単純数詞はいずれも後ろに「100」を表す部分が付いた形で,"2つの100","3つの100","4つの100"……のような構造をしている。「100」を表す部分の形が違うのは,元々「100」に単数・双数・複数の格変化があり,前に来る数詞に合わせて格変化したため。
「100から900」の後には「99以下」の基数詞をそのまま続けることができ,「999以下」の合成数詞が作れる。
999以下の合成数詞(例)
101
сто один
202
двісті два
310
триста десять
411
чотириста одинадцять
520
п'ятсот двадцять
630
шістсот тридцять
722
сімсот двадцять два
833
вісімсот тридцять три
999
дев'ятсот дев'яносто дев'ять
1000以上
1,000
тисяча(tysjača)
1,000,000(100万)
мільйон(milʹjon)
1,000,000,000(10億)
мільярд(milʹjard)
1,000,000,000,000(1兆)
трильйон(trylʹjon)
「1000以上」の基数詞には上のような位を表す単純数詞があり,3桁ごとに位が変わる。例えば,「10,000(1万)」はдесять тисячで"10個の1000",「100,000(10万)」はсто тисячで"100個の1000"のような構造になる。
位を表す数詞の前には「999以下」の基数詞を置くことができる。このとき,位を表す数詞は名詞と同じように格変化する。前に来る基数詞の末尾が「1」なら単数主格,「2から4」なら複数主格,「5以上」なら複数生格となる(前に来る基数詞が主格の場合)。
単数主格 | 複数主格 | 複数生格 | |
---|---|---|---|
1,000 | тисяча (tysjača) |
тисячі (tysjači) |
тисяч (tysjač) |
1,000,000 (100万) |
мільйон (milʹjon) |
мільйони (milʹjony) |
мільйонів (milʹjoniv) |
1,000,000,000 (10億) |
мільярд (milʹjard) |
мільярди (milʹjardy) |
мільярдів (milʹjardiv) |
1,000,000,000,000 (1兆) |
трильйон (trylʹjon) |
трильйони (trylʹjony) |
трильйонів (trylʹjoniv) |
このうちтисяча「1000」は女性名詞,ほかは男性名詞なので,前に来る基数詞の末尾が「1」と「2」の場合は性も一致させる。
1000以上の合成数詞①
2,000
дві тисячі
10,000
десять тисяч
15,000
п'ятнадцять тисяч
25,000
двадцять п'ять тисяч
50,000
п'ятдесят тисяч
100,000
сто тисяч
101,000
сто одна тисяча
102,000
сто дві тисячі
999,000
дев'ятсот дев'яносто дев'ять тисяч
また,後ろにはより小さい基数詞をそのまま続けることができる。
1000以上の合成数詞②
1,001
тисяча один
1,010
тисяча десять
1,050
тисяча п'ятдесят
1,099
тисяча дев'яносто дев'ять
1,100
тисяча сто
1,234
тисяча двісті тридцять чотири
1,000,001
мільйон один
1,001,000
мільйон тисяча
1,234,567
мільйон двісті тридцять чотири тисячі п'ятьсот шістдесят сім
まとめ
ここまで,ウクライナ語の基数詞をいくつかのグループに分けて見てきた。最後に,それぞれの基数詞の特徴を簡単にまとめておく。
0
- ほかの基数詞と組み合わせられない。
1から9
- 「1」と「2」には性の区別がある。
- 「20から90」「100から900」「1000以上」の基数詞の後ろに続けることができる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
10から19
- 「100から900」「1000以上」の基数詞の後ろに続けることができる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
20から90
- 後ろに「1から9」の基数詞を続けることができる。
- 「100から900」「1000以上」の基数詞の後ろに続けることができる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
100から900
- 後ろに「99以下」の基数詞を続けることができる。
- 「1000以上」の基数詞の後ろに続けることができる。
- 「1000以上」の基数詞の前に置くことができる。
1000以上
- 前に「999以下」の基数詞を置くことができる。
- 前に置く基数詞に合わせて名詞のように格変化する。
- 後ろにより小さな基数詞を続けることができる。
ウクライナ語の基数詞のしくみは,言語の系統が近い「ロシア語」やベラルーシ語とよく似ている。「2から4」の基数詞を「1000以上」の単純数詞の前に置くとき,「1000以上」の単純数詞が複数主格になるのがウクライナ語の特徴(ロシア語では単数生格)。
参考文献
- 『ニューエクスプレス ウクライナ語(CD付)』白水社,2009年,中澤英彦
- 『初級ウクライナ語文法』三修社,2017年,黒田龍之助
- 『比較で読みとく スラヴ語のしくみ』白水社,2016年,三谷惠子
- 『ロシア語史入門』大学書林,2012年,佐藤純一
- 「два - Wiktionary, the free dictionary」2025/04/14閲覧