ことばのミソ 比較のトマト

言語の比較・対照/そのための多言語学習

注音符号のしくみ

 注音符号のしくみについて書く。注音符号は主に台湾で使われる,中国語の発音を示す記号である。ちゃんと覚えて使えるように,自分の知識の整理がてらまとめてみた。

 ピンインの知識が前提になっているので注意。

  • 目次-CONTENTS-

 

注音符号で使う記号

 最初に注音符号で使う記号の一覧を示す。詳しい書き方のルールは,次の「#注音符号の書き方」に書く。

声母


b

p

m

f

d

t

n

l

g

k

h
 

j

q

x
 

zh

ch

sh

r

z

c

s
 

介音/韻母


i

u

 

韻母


a

o

e

e

ai

ei

ao

ou

an

en

ang

eng

er
     

声調

第1声
 
第2声
ˊ
第3声
ˇ
第4声
ˋ
軽声
˙

 

注音符号の書き方

 中国語の音節は,大きく「声母」(音節のはじめの子音)と「韻母」(声母以外の部分)に分かれる。例えばpianという音節なら下のようになる。

p
声母

i
介音

a
主母音

n
韻尾

 声母以外の部分をまとめて「韻母」と言う。pianの場合はianが韻母ということ。韻母は介音・主母音・韻尾などで構成される。

 「介音」は主母音の前に現れるi, u, üのこと(ianの「i」,uoの「o」,üeの「ü」など)。「主母音」は音節の中心となる母音のこと。「韻尾」は主母音の後に現れるn, ng, i, uなどのこと(angの「ng」やyouの「u」など)。

 注音符号では,このうち「主母音」と「韻尾」はまとめて1字で表される。


p
声母


i
介音


an
主母音と韻尾

 基本的にはこの要領で「声母」「介音」「主母音(と韻尾)」を選んで組み合わせればいい。ただし,中にはピンインと注音符号で書き方が違うものがある。以下,ピンインと比べて注意すべきところを書いていく。

介音の注意点


i (yi)

u (wu)

ü (yu)

 介音を表すこれらの記号は,後に何も続かない場合,これら自身が主母音になる。ピンインではyi, wu, yuのように声母がないときに書き方が変わるけど,注音符号では声母があってもなくても書き方は変わらない。

ㄅㄧˇ

ㄕㄨ

ㄨˇ

ㄋㄩˇ

ㄩˊ


 介音に主母音が続くときの書き方は以下のとおり。縦軸が介音,横軸がそれに続く主母音あるいは主母音+韻尾である。多いのでちょっとずつ分けて表にした。

 カッコ内に書いたのはピンインで声母がないときの書き方,カッコ外のピンインは声母があるときの書き方である。ピンインでは場合によって母音が省略されたり,yやwを加えたりするけど,注音符号はそういうことはしない。そのためピンインと注音符号の対応が一見難しく見える。

介音+単韻母

 
a

o

e

i
ㄧㄚ
ia (ya)
ㄧㄛ
io (yo)
ㄧㄝ
ie (ye)

u
ㄨㄚ
ua (wa)
ㄨㄛ
uo (wo)
 

    ㄩㄝ
üe (yue)

 ioは声母と結びつくことはないみたい?

介音+複韻母

 
ai

ei

ao

ou

i
    ㄧㄠ
iao (yao)
ㄧㄡ
iu (you)

u
ㄨㄞ
uai (wai)
ㄨㄟ
ui (wei)
   

介音+鼻韻母

 
an

en

ang

eng

i
ㄧㄢ
ian (yan)
ㄧㄣ
in (yin)
ㄧㄤ
iang (yang)
ㄧㄥ
ing (ying)

u
ㄨㄢ
uan (wan)
ㄨㄣ
un (wen)
ㄨㄤ
uang (wang)
ㄨㄥ
ong (weng)

ㄩㄢ
üan (yuan)
ㄩㄣ
ün (yun)
  ㄩㄥ
iong (yong)

 最後の行のüan, ün, iongはj, q, xと 結びついて,ピンインではxuan, xun, xiongのように書かれる。ピンインではuと書くけど,注音符号では üを使うところに注意(→「#声母の注意点」も参照)。

韻母の注意点


e

e

 韻母のうち,eを表す記号がふたつある。は, leや,deなどのeの発音を表すときに,は,ieまたはüeの組み合わせで使われる。

˙ㄌㄜ

ㄜˋ

ㄅㄧㄝˊ

ㄧㄝˇ

ㄌㄩㄝˋ

ㄩㄝˋ



er

 はerという音節を表し,単独でしか用いられない。

 アル化した音節を表すとき,音節の最後にをつける書き方があるらしい(参考→「兒化 - 维基百科,自由的百科全书」。ただ,台湾華語ではアル化はあまり用いられない。

 アル化の注音符号での表記について詳しく知りたかったけど,調べてもよく分からなかった。何か分かったらここに追記する。

声母の注意点


zh / zhi

ch / chi

sh / shi

r / ri

z / zi

c / ci

s / si

 声母のうち上の7つは,後ろに何も書かない場合zhi, chi, shi, ri, zi, ci, siを表す。この「i」はそもそもpi, bi, miなどとは発音が異なる。ピンインではどちらもiで書くけど,注音符号では違う書き方をするので注意。

 後ろにそのほかの韻母が続く場合は,それぞれの子音zh, ch, sh, r, z, c, sを表す。


 ピンインでju, jue, juan, junと書くときのuは,本来はüの音である。注音符号では発音どおりに üを使って書く。

 
ㄩㄝ
üe
ㄩㄢ
üan
ㄩㄣ
ün

j
ㄐㄩ
ju
ㄐㄩㄝ
jue
ㄐㄩㄢ
juan
ㄐㄩㄣ
jun

q
ㄑㄩ
qu
ㄑㄩㄝ
que
ㄑㄩㄢ
quan
ㄑㄩㄣ
qun

x
ㄒㄩ
xu
ㄒㄩㄝ
xue
ㄒㄩㄢ
xuan
ㄒㄩㄣ
xun

声調の書き方

 声調記号は,横書きだと音節の最後の字の右側に,縦書きだと音節の最後の字の右上に書く。ただし,第1声のときは記号を書かない。軽声の記号は音節の前に書く。

 咖啡 kāfēi「コーヒー」(第1声),明年 míngnián「来年」(第2声),水果 shuǐguǒ「果物」(第3声),道路 dàolù「道路,道」(第4声),什麽 shénme「何」(第2声+軽声)の発音をそれぞれ注音符号で書いてみる。

声調記号(横書き)

咖啡

ㄎㄚ ㄈㄟ

明年

ㄇㄧㄥˊ ㄋㄧㄢˊ

水果

ㄕㄨㄟˇ ㄍㄨㄛˇ

道路

ㄉㄠˋ ㄌㄨˋ

什麽

ㄕㄣˊ ˙ㄇㄜ

声調記号(縦書き)

ㄎㄚㄈㄟ

ㄇㄧㄥˊㄋㄧㄢˊ

ㄕㄨㄟˇㄍㄨㄛˇ

ㄉㄠˋㄌㄨˋ

ㄕㄣˊ˙ㄇㄜ

声調記号(縦書き)

ㄎㄚㄈㄟㄇㄧㄥˊㄋㄧㄢˊㄕㄨㄟˇㄍㄨㄛˇㄉㄠˋㄌㄨˋㄕㄣˊ˙ㄇㄜ

 私の持っている台湾華語の参考書に,横書きの文字の下に縦書きで注音が書かれていたので真似てみた。上の縦書きの注音符号は,ルビを振るタグrubyrtを使っているので,対応していないブラウザではレイアウトがおかしくなるかもしれない。

 

あとがき

 書いてみて,複雑だなぁと思った。少なくとも自分にとって分かりやすくなってはいる。ただ,あんまり学習用には向いてないなと思った。

 私は先にピンインを覚えたから,その知識ありきで注音符号を覚えることになった。もし普通話じゃなくて台湾華語から中国語の世界に入ろうとする人は,ゼロから注音符号を覚えることになるのか。その場合はどんな風に「注音符号のしくみ」をまとめるのが分かりやすいだろうか。

 機会があったら別の視点からの「注音符号のしくみ」記事も書いてみたい。

 

参考文献

  • 『クラウン中日辞典 小型版CD付き』三省堂,2004年,松岡榮志(編集主幹)
  • 『もっと知りたい台湾華語(CD付き)』白水社,2021年,張佩茹