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印欧語族スラヴ語派の《音の対応》について書きたい。そのためにまずは,対象言語と共通スラヴ語について簡単に説明しておく。
- 目次-CONTENTS-
対象言語
印欧語族スラヴ語派には,以下のような言語が属す。大きく東スラヴ語群,西スラヴ語群,南スラヴ語群の3つに分かれる。
東スラヴ語群
ロシア語,ウクライナ語,ベラルーシ語,ルシン語
西スラヴ語群
ポーランド語,カシュブ語,上ソルブ語,下ソルブ語,チェコ語,スロヴァキア語
南スラヴ語群
スロヴェニア語,セルビア語,クロアチア語,ボスニア語,ツルナゴーラ語,ブルガリア語,マケドニア語,古代教会スラヴ語
このうち,太字で示した14の言語が比較的データを集めやすいので,これらを対象として《音の対応》記事を書いていきたい。ルシン語,カシュブ語,ボスニア語,ツルナゴーラ語は扱わないが,データを集められるなら,今後追加するかもしれない。
これらの言語の《音の対応》を比較するときに軸となるのが,次に書く共通スラヴ語である。
共通スラヴ語
スラヴ語派の言語(スラヴ諸語)は,元々ひとつの言語だったと考えらえる。そこで,スラヴ諸語の祖先である大元の言語のことをスラヴ祖語と言う。そして,このスラヴ祖語にいろいろな変化が起きて,スラヴ語らしい特徴が形成された末期の状態を特に共通スラヴ語と呼ぶ。
スラヴ諸語の《音の対応》を比較することで,共通スラヴ語がどんな姿をしていたのかを再建することができる。すでにある程度,共通スラヴ語の姿は再建されているので,私は逆に共通スラヴ語を軸にしてスラヴ諸語の《音の対応》を見る作業がしたい。
共通スラヴ語の母音
- a
- o
- e
- ě
- i
- y
- u
- ę
- ǫ
- ъ
- ь
共通スラヴ語の子音
- p
- b
- t
- d
- k
- g
- x
- s
- z
- v
- m
- n
- r
- l
- j
- c
- dz
- č
- dž
- š
- ś
- ž
- ť
- ď
- ň
- ř
- ľ
共通スラヴ語に再建される母音と子音は上記のとおり。再建形であることを示すために,ふつうはアステリスクをつけて*a, *pのように示す(上の表では見やすさのためにあえて省略した)。
これらの音を2~3個ずつ取り上げて,スラヴ諸語の間にどんな《音の対応》が見られるのかを観察していきたい。単純にこういう比較をするのも楽しいし,今後,語源の話や別の視点からスラヴ諸語の比較をするときにも役立つだろうと思う。今後のためにも丁寧にまとめていきたい。
参考文献
- 『共通スラヴ語音韻論概説』水声社,2008年,原求作
- 「Proto-Slavic language - Wikipedia」2025/07/30閲覧