ハンガリー語の品詞について書く。参考文献をもとに,名詞,形容詞,代名詞,数詞,動詞,副詞,後置詞,冠詞,接続詞,間投詞の10個を扱う。
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グロスと略号
例文には適宜グロスをつける。この記事で使うグロスの略号は以下のとおり。グロスについて詳しくは「グロスについて」を参照。
Ø
ゼロ要素
1
1人称
2
2人称
3
3人称
acc
対格
advz
副詞化
cond
仮定法
def
定
indf
不定
inf
不定形
nom
主格
prs
現在
sg
単数
supe
上格
また,グロス中の数字が略号ではなく語の意味を表す場合は,「3」のように数字にアンダーラインを引いた。
名詞
人・物・抽象的概念など,様々なものの名前を表す。
ハンガリー語の名詞には,単数と複数の区別や,主格・対格・与格・具格・内格・上格・接格・出格・離格・奪格などの格変化がある。いわゆる「格」を表すもののほかにも様々な接尾辞があるため,研究者や文献によって格の数は異なることがある。
ハンガリー語の格に関しては日本語訳にもばらつきがあるため,このブログでどう扱うのかきちんと検討しておきたいが,ここでは一旦保留としたい。
- Szeretem a zenét.
-
Szeret-em
好きだ-1sg.prs
a
def
zené-t
音楽-acc
- 私は音楽が好きだ。
例文1では,名詞zene「音楽」に対格の語尾-tがついていて、これが動詞の直接目的語を表している。
名詞の例
kutya
「犬」
macska
「猫」
család
「家族」
alma
「りんご」
zene
「音楽」
magyar
「ハンガリー語」
形容詞
人や物の性質・属性・状態などを表す。
ハンガリー語の形容詞は,名詞を修飾するときには格変化しない。単独で名詞のように使われるときや,コピュラとともに述語になる場合は語尾がつく。
- nagy dobozt
-
nagy
大きい
doboz-t
箱-acc
- 大きな箱を
- Nagyot szeretnék.
-
Nagy-ot
大きい-acc
szeret-nék
好きだ-1sg.cond.prs
- 大きいのをお願いします。
例文2のように,名詞が対格形になっても,形容詞は変化しない。例文3のように,形容詞を単独で使うときには格語尾が現れる。szeretnékは「好きだ」の仮定法・現在形で,「~がほしい」のような意味。
形容詞の例
nagy
「大きい」
kicsi
「小さい」
jó
「良い」
rossz
「悪い」
fehér
「白い」
piros
「赤い」
boldog
「幸せな」
magyar
「ハンガリーの」
代名詞
ほかの語の代わりをする語。
ハンガリー語には,人称代名詞,指示代名詞,疑問代名詞,否定代名詞,関係代名詞などの代名詞がある。いずれも名詞と同じように格変化をして,文中での役割を変える。ただし,格変化の数は異なる場合がある。
- Mit olvasol?
-
Mi-t
何-acc
olvas-ol
読む-2sg.prs
- 何を読んでいるの?
例文4のmitはmi「何」の対格形。
代名詞の例
én
「私」
te
「君」
ő
「彼,彼女」
mi
「何」
ki
「誰」
milyen
「どんな」
ez
「これ」
az
「あれ」
semmi
「何も…ない」
senki
「誰も…ない」
数詞
ハンガリー語には基数・序数・集合数・番号数など,数を表す語がいろいろある。基数をもとにして,いろいろな接尾辞をつけることで,ほかの数詞が作られる。形容詞のように名詞を修飾したり,単体で名詞のように使われたりする。
- három könyv
-
három
3
könyv
本
- 3冊の本
- a harmadik emeleten
-
a
def
harmadik
3番目の
emelet-en
階-supe
- 4階に
例文5のように,2以上の基数と名詞を組み合わせるとき,名詞は複数形ではなく単数形のままである。
例文6で「3番目の階」が「4階」を表しているのは,ハンガリー語では1階をföldszint「地上階」と呼び,2階が「1階」となるため。また,emeletenはemelet「階」の上格形(~に,~の上に)である。
1から10までの基数
1
egy
2
kettő
3
három
4
négy
5
öt
6
hat
7
hét
8
nyolc
9
kilenc
10
tíz
動詞
動作や状態などを表す。
ハンガリー語の動詞は主語の人称・数や時制などによって活用するほか,目的語の有無や定不定などの違いによって,定活用・不定活用を使い分ける。これらの要素はいずれも語尾の変化で表す。
- Szeretek énekelni.
-
Szeret-ek
好きだ-1sg.prs.indf
énekel-ni
歌う-inf
- 私は歌うのが好きだ。
- Szeretem a zenét.
-
Szeret-em
好きだ-1sg.prs.def
a
def
zené-t
音楽-acc
- 私は音楽が好きだ。
例文7は,動詞の不定形を使った「~が好きだ」という表現で,不定活用を使っている。例文8は,目的語に定冠詞が付いているので,定活用が使われている。
動詞の例
olvas
「読む」
ír
「書く」
néz
「見る」
hall
「聞く」
beszél
「話す」
énekel
「歌う」
szeret
「好きだ」
tanul
「勉強する」
副詞
時間・場所・様態・程度などを表し,形容詞・副詞・動詞などを修飾する語。
- Péter nagyon jól beszél németül.
-
Péter
ペーテル.nom
nagyon
とても
jól
上手に
beszél-Ø
話す-3sg.prs
német-ül
ドイツ語-advz
- 彼はドイツ語をとても上手に話す。
例文9のnagyon「とても」はnagy「大きい」から,jól「上手に」はjó「良い」から派生した副詞である。また,németül「ドイツ語で」もnémet「ドイツ語」に副詞を作る語尾-ülを付けたもの。
副詞の例
nagyon
「とても」
jól
「よく,上手に」
ma
「今日」
most
「今」
itt
「ここに」
ott
「あそこに」
szóval
「つまり」
persze
「もちろん」
後置詞
ほかの語の後に置いて,いろいろな意味・役割を導く。中には特定の格を要求するもの,後置詞本体に人称を表す接尾辞が付くものもある。
- A park a könyvtár előtt van.
-
A
def
park
公園.nom
a
def
könyvtár
図書館.nom
előtt
…の前に
van
ある3sg.prs
- 公園は図書館の前にある。
後置詞の例
előtt
「…の前に」
mögött
「…の後ろに」
fölött
「…の上方に」
alatt
「…の下に」
kivül
「…以外に」
át
「…を通って」
miatt
「…のせいで」
szerint
「…によると」
冠詞
ハンガリー語には名詞の定性を表す不定冠詞と定冠詞がある。定冠詞は後に続く語の語頭音によってa/azの変化があるが,単数・複数の区別など,格変化はしない。
- Szeretem a zenét.
-
Szeret-em
好きだ-1sg.prs
a
def
zené-t
音楽-acc
- 私は音楽が好きだ。
例文11のa zenétは総称表現で,「音楽」というもの全体を捉えた言い方。
接続詞
語と語,文と文などをつなぐ語。
- Beszélek németül és franciául.
-
Beszél-ek
話す-1sg.prs
német-ül
ドイツ語-advz
és
と
franciá-ul
フランス語-advz
- 私はドイツ語とフランス語を話します。
接続詞の例
és
「と,そして」
de
「しかし」
vagy
「または」
ha
「もし…なら」
hogy
「…ということ」
間投詞
話者の感情や,呼びかけなどを表す語。例えば,á「えーっと」,ó「おお」,jaj「ああ」,halló「もしもし」,Szia!「やあ!」などがある。
参考文献
- 『ハンガリー語の入門[改訂版]』白水社,2019年,早稲田みか,コヴァーチ・レナータ
- 「Magyar nyelvtan – Wikipédia」2024/09/05閲覧